水中で実施する蘇生方法に関するガイドライン




レズリー・アレクサンダー医師著

質問:

呼吸をしていないダイバーが水中で発見された場合、救助者は、水中で蘇生手順を試みるべきか、あるいはまず事故者を岸へ移動してから蘇生手順を試みるべきかという難しい選択を迫られる。

水中で実施する蘇生方法に関するガイドライン

これらのガイドラインは、水中で発見された呼吸をしていない事故者に対して水中で蘇生を実施する際にガイドとなる手順である。

1. 救助者の安全を確保する。

[救助者は、まず現場の安全性を確認するべきである。自分自身が事故者になってしまうと、他の事故者を援助することはできない]

2. 救助者と事故者の安全を確保する。

[救助者が事故者のアシストに成功するためには、まず十分に安全性を維持する必要がある。事故者を発見した場所で安全に換気を行うことができない場合は、直ちに安全な場所へ移動するべきである。これらの場所には、水中の別の場所(沖側)、岸の近く、あるいはレスキュー・ボートの中などが含まれる]

3. 救助者と事故者の浮力を確保する。

4. 事故者の反応を評価し、呼吸を確認する。

5. 事故者の呼吸がないと判断したら、2回のレスキュー呼吸を実施する。

[救助者と事故者が水中にいる間に、意識のない事故者が呼吸をしているかどうかを確認することは困難である。救助者がもし呼吸をしている事故者に換気を行ったとしても、悪化させることはない。また、呼吸をしていない場合は、換気を実施することによって回復させるか、あるいは最低でも循環を維持することができる]

6. 換気が再開した場合は、事故者が呼吸を確認しながら浜へと向かって曳行する。

[レスキューを実施する間は、事故者が呼吸をしている場合でも、最初の5~10分の間に再び呼吸が停止する可能性があるため、救助者は常に事故者を観察する]

7. ダイバーが呼吸をしていないことを確認し、アシストを受けられる場所(ボートや岸)へ事故者をすばやく搬送することができる場合は、5秒毎に1回のレスキュー呼吸を実施しながら移動する。

[呼吸器停止や事故者自らの呼吸が不十分である場合は、気道確保とレスキュー呼吸によって命をとりとめることができるかもしれない。第一期の呼吸器停止の時に心臓と肺は数分間血液に酸素を提供することができるため、酸素は脳とその他の重要な臓器に運ばれ続ける。呼吸停止はその後、心拍停*止へと悪化する。その間隔は短いが、事故者の身体の状態、水温、それまでの低酸素状態、感情、またその他に関連した病気によって影響される]

8. 5秒毎に1回のレスキュー呼吸を実施しながら、状況を評価し(あなた自身の能力、援助を得る機会、環境的状況など)、状況に応じて手順を進める。

A. 安全な場所まで5分未満で移動できると判断した場合は、レスキュー呼吸を実施しながらダイバーを安全な場所へ曳行する。ダイバーを水から引き上げて、レスキュー呼吸を継続して循環を確認する。必要であれば、CPRを開始する。

[水中で蘇生を試みることで、すばやく心拍停止の発生率を低下することができる。心拍停止
による死亡率(33~93%)は、呼吸停止のみによる死亡率(0~44%)よりも非常に高いこと
が、水中ですばやく蘇生を試みる理由である。多くの場合、最初の1分間に実施されるマウ
ス・トゥ・マウスによる換気によって呼吸は再開される。呼吸停止だけの事故者の場合、水中
で人工的に換気を開始することで、呼吸をしていない事故者の回復率を50%以上にすることが
できるかもしれない]

B. 安全な場所まで5分以上かかりそうならば、移動や換気に対するそ
の他の反応について調べながら換気を続ける。
* 1. 移動やレスキュー呼吸に対する反応があれば、レスキュー呼吸を
しながら安全な場所への曳行を継続する。
* 2. 移動やレスキュー呼吸に対する反応がなければ、ダイバーはおそ
らく心拍停止である。レスキュー呼吸をやめ、できるだけ速く安
全性に事故者を曳行してエキジットしてから循環の確認をして、
そして必要に応じてCPRを開始する。循環があれば、レスキュ
ー呼吸をふたたび始める。

[事故者の心拍が停止している場合、血液の循環がないため、レスキュー呼吸を実施しても効
果はない。そのため、CPRをできるだけ早く開始するために、事故者を出来るだけ早く水から
引き上げることが優先される。水中でさらにレスキュー呼吸を試みることは、事故者を水から
引き上げてCPRを実施することを遅らせるだけである。そのため、レスキュー呼吸よりも移動
する速度が優先される]

参考文献

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